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どんぐりと山猫

太宰治シリーズ第1弾

 原作  太宰治
 作曲  白石准(2014年に作曲/2014年初演、2016年改訂)
 編成  ピアノ1名 語り2名(男性の語り手が必須;一人が、メロスの台詞、もう一人が、その他の暴君ディオニスや親友セリヌンティウスの台詞、その他ナレーションは二人で担当)

“オツベルと象”、そして、草野心平や山之口貘の詩で採用した手法、「言葉に綿密な拍子とリズムを与えるという形式」を踏襲しながら、この“走れメロス”では、台詞が多く、かつ、感情移入を邪魔しないよう、その部分はかなり自由に語らせ、Pianoがそれに即興的にくっついていくという形式を取りました。


1時間近く上演時間のかかる、“オツベルと象”と同じくらいのスコアのページ数(Piano譜にして150ページを超える)、しかも小節数にしたらそれを遙かに上回る1800小節を費やすこの作品、しかし、動きがある場面が多く、スピード感があるので、全体の上演時刻はほぼ45分前後です。


語り手二人でリズムに乗せて語るという形式において、白石准は“オツベルと象”のなかで、まるで合唱曲の様に、同時に違うリズムで言葉を発する実験をしていました。

この作品ではそれをさらに多用し、語り手達の言葉の律動が絡む事の音楽性を強調しているところがあります。
どちらかというと、Pianoは今までの宮沢賢治作品で試みたように、音楽の中にメインテーマとか、楽曲の存在は殆ど無くし、音楽は完全に背景の情景やメロスの感情を表す控えめなものになっています。

この太宰の文章には、宮沢賢治や草野心平ほどオノマトペはありません。
しかし、白石准によって、同じ言葉を繰り返し二人の語り手が違うリズムで重ねて読むという、朗読の「説明感」「単純な叙述」から離れて、言葉自体に音楽を埋め込んだ作品になっています。


“オツベルと象”では殆ど音楽は常に鳴っていましたが、この作品ではPianoの休んでいる時間帯は今までで一番多いけれども、語り手と音楽が鳴り出した瞬間は、かなり綿密なアンサンブルが要求されています。


役者が自由に読み、そこに音楽家が音を着けるというよりは、相当反復練習をつみ、水泳のシンクロの様に一糸乱れぬアンサンブルを作り上げたいという、「かなり練習しなければ成立しない言葉と音楽の絡み」、言葉の意味を伝えるというよりは、やはりそこに「音楽」の要素を感じる作品にしたかったという今までの路線は踏襲されています。


それと、主人公メロスの他に、街で出会う、老爺、暴君ディオニス、そして、メロスが三日間の猶予を暴君に願い出る根拠は、愛する妹の存在があるはずなのに、妹の台詞は一個も無く、その婚約者と、親友セリヌンティウス、そしてその弟子など、言葉を発するのがすべて男性というこのプランは、きっと太宰治のこの男性的な文章には必要不可欠だったのでしょう。

その為にも、白石准は、この上演において、女声の朗読は考慮されていません。2014/5/29に初演を迎えます。
今後、この作品は山猫合奏団の重要なレパートリーの一つになると確信しています。

太宰治シリーズが続くよう、それの第一段としては、相手にとって不足の無い素材でした。


初演以来、ピアノの部分の数割は即興演奏で行われてきましたが、何度かの再演を繰り返すうちに、やはりもっと綿密に音楽とシンクロさせた方が良いと作曲者は考えるようになり、2016年でマイナーチェンジ、そして2017年の上演に向けて新たに加筆しているところです。