宮沢賢治シリーズ第3弾
原作 | 宮沢賢治 |
作曲 | 白石准(2005に作曲/2005年初演) |
編成 | 語り2名(語り手は1名の時も4名の時も) ピアノ1名 |
“どんぐりと山猫”、“セロ弾きのゴーシュ”を書いた後、白石准がこの作品を作曲するにあたって、手法として前の2つではごく一部でしか使わなかった「歌う」ということを、この“注文の多い料理店”ではとても重要なエッセンスとして中心に据えました。
二人の高慢な紳士が山の中で迷い、そこで突然目の前に現れる西洋料理店。 空腹を満たすために入ってみたものの、誰も迎えに出てくるわけでもなく、 延々と続く廊下、行く手には次々と現れる扉、それらに書かれた店主からのメッセージ、それが二人を恐怖のどん底に追い込んで行く。 白石准は、そのまだ見ぬ店主からのメッセージを歌のヴァリエイションで表しました。 聴衆はピアノの音と歌い手の肉声よって、賢治の世界に引き込まれていきます。 その時、改めて音楽というものが彼岸と此岸の懸け橋であることを思い知らされるのです。 扉に書かれた不気味なメッセージは、紳士たちの脅えた弱々しい声で読まれるべきか、あざ笑う山猫の高らかな声で語られるべきなのか。 演劇人なら頭を抱えてしまうであろう極めて困難な課題を、歌という形で易々と越えることができたのは、白石准がまさに音楽家であるからに他なりません。 抽象と具象が、歌という手法の中でどう処理され融合されているのか、是非皆さんご自身の耳で確かめてください。 現状の上演形態では、歌唱力に定評のある高山正樹が扉に書かれているメッセージを歌う役、それ以外の語りを楠定憲が、そして二人の紳士たちはこの二人で分担してやっていますが、2011年にはその二人の紳士を原田邦治と林大介というふたりとも楠定憲の所属する劇団あとむのメンバーによって上演されました。 歌が中心の音楽ではありますが、物語の最初と最後に置かれている、まったく本編とは空気感を異にする、ピアノ独奏による、晩秋の寂寥感に満ちた異界の森の音楽がこの物語の詩情を彩ります。 |